JABARAレーベル


「路傍の芸」
里 国隆(さと・くにたか)
JAB-10 \2,300(税別)
路傍の芸

収録曲
  1. 安木節
  2. 草津節
  3. 流転
  4. あさばな節
  5. くるだんど節[♪]
    (戦争や負けて)
  6. くるだんど節
    (暮しまさり)
  7. 大利根月夜
  8. 皇国の母
  9. 製糸小唄
  10. かんつめ節
録音:宮里 千里
1982年11月17日
沖縄那覇市平和通りにて路上レコーディング
「路傍の芸」に寄せていただいた各界ユニークな人たちのコメント
斎藤徹(コントラバス奏者)
湯浅学(幻の名盤開放同盟常務)
東琢磨(「アンボス・ムンドス」編集長)
上野知子(南日本放送 アナウンサー)
松山晋也(音楽評論家)

JABARAレーベルのCDは愛かな市場にてお買い求めいただけます。

斎藤徹(コントラバス奏者)
 まずリズムが凄い。前拍の強烈にきいた(しかも気持ちよく揺らぐ)リズムは大地・自然から受けたものに違いない。それにこの声。頭蓋骨を震わせて出しているのだろうか、実際に聴いたらホーミーの倍音に近いものが出ていただろう。奄美の年寄りに聞くと「よくあそこら辺で、樟脳売りながら歌っていたよ」こんな歌が日常的にあったなんて強烈すぎる。あの自然の中で、しかも視覚がないとすれば、自分をリアルに感じるためにはこのくらいノイジーでないと成り立たないのかもしれない。砂糖きびプランテーションだった奄美島唄独特の振り絞るようなブルース感覚と、大抵の苦労はしてきた末の「軽さ」を合わせ持った希有のものだ。ともあれ、世界最善の歌の一つであることは間違いない。


湯浅学(幻の名盤開放同盟常務)
 空気となり蒸気となり地にしみこみ天に登った歌声が再び天滴となって舞い降りてきた。大気と化した歌とは永久運動を続ける。地となり塩となった歌は天を歪ませる。ここは珍島か、と錯覚させるのはそのためなのだが笑う根性がここには立っている。


東琢磨(「アンボス・ムンドス」編集長)
『蘇る幻の歌い手の伝説の路上録音』
 里国隆(1918-1985)。「さと・くにたか」と読む。
 既に『あがれゆぬはる加那』(オフノート)の衝撃によって少なからぬ人々によって、その歌声が再発見された奄美の盲目の、そして路上のシンガーである。「再発見」?そう、彼は既に照屋林助を経由して、これまた再評価が靜かに進むルポライター/芸能評論家・故竹中労によって1970年代に本土へと紹介されている。コロムビア、テイチクからLPが発売されたが、もちろん現在は廃盤。ものすごい高値がついている。驚異的なスピードで音楽が消費されていくこの時代に「知る人ぞ知る」存在になっていた里国隆が復活し、新しいリスナーを獲得したことは、少なからぬ人々が、彼のような「歌/声」を無意識に持ち続けていたこともあるのだろうか。
 そして、「さと・くにたか」の凄みは「歌/声」だけではない、その竪琴・四つ竹(拍子)の引き語りというスタイルにも他の何ものにもない圧倒的な存在感が宿っている。音の粒が光り輝くような琴とかちかちと歩くような踊るような四つ竹の音をちりばめながら、喉の奥から記憶を絞り出すように歌い継いでいく。その鮮やかなコントラストにも息を呑む。彼の音楽を私たちは既にライヴで聴くことはできないが、録音されたものにも鮮烈な臨場感に満ちた生々しさがほとばしるように刻印されているのだ。
 少しマニアックにいえば、今回、CD化された音源は、まさに伝説となっていたものだ。大工哲弘からザ・ブームの「島唄」まで幅広く琉球弧の音楽を深く愛し、積極的に取り組み続けている宮里千里さんによる1982年那覇平和通りでの録音。宮里さんの著書『アコークロー』(ボーダーインク刊)に収録された「平和通りのたび芸人」という魅力いっぱいの文章によって私たちはその録音の存在を知ったが、まさかその音がCD化されて多くの人々の耳に届く日がくるとは思ってもみなかった。
 そして、驚くべきことに、ここでの里国隆は『あがれゆぬはる加那』の彼とはまた違った表情を聴かせてくれる。あの、押し込められていた闇の記憶が噴出してくるような「あさばな」の異様なまでの名唱とは異なり、どこか飄々とした存在感を漂わせている。芸人の日常は路上にあり、その芸の真価もまた路上で試されるということなのだろうか。奄美だけでなく、日本各地の民謡や流行歌を弾き歌う彼に、街の様々なノイズが寄り添っていく。言うまでもないが、それは通常のライヴ会場でのミュージシャンとファンとが作り上げる親密な交感とはまったく異なる位相のものだ。音と音との交錯の瞬間なのである。そして、その瞬間の持続の中に里国隆とその歌も生き続けていたということが体感できる。この録音から、私はきっともう少しだけなのだろうが、里国隆という人に近づくことができたように思う。
 既に『あがれゆぬはる加那』で彼の虜になっている方には違う面を楽しんで頂けるだろうし、まだ、「さと・くにたか」自体に出会っていない方にも、道端で「うた」の生まれてくる、その瞬間をとどめたこの貴重かつ強靭な生命力を持った録音にふれてみて頂きたい。


上野知子(南日本放送 アナウンサー)
 2年前に発売されたCD『あがれゆぬはる加那』で初めて里国隆の竪琴を聴いた時、全身に鳥肌が立ちました。華やかな。そしてそれに続く、絞り出すような野太い声。湿度の高い、セピア色の無国籍空間に放り込まれたような不思議な感覚でした。
 時を超えて蘇る『路傍の芸』は、盲目の唄者・里国隆の「生命の響き」なのです。
(ラジオドキュメンタリー「路傍の唄者〜盲目のストリートシンガー・里国隆」制作者)


松山晋也(音楽評論家)
 民謡からナツメロ歌謡曲まで、手作りの楽器を使った無手勝流の弾き語り。唄も演奏も特に上手なわけじゃないし、伝統芸能としての様式美があるわけでもない。なのに、この威厳は何なのだろう。路傍の雑草のように、南海のブルースマンの「生きる」ための歌はどこまでも勁い。