奄美の三味線に絹の弦

続編もどうぞ、「絹の女弦を少し太く

はじめに

当社(観光ネットワーク奄美)では、奄美の自然だけでなく、文化や歴史についてもご案内していますが、管理人個人の趣味も兼ねて奄美の民謡である「シマ唄」もご案内しています。

この記事は、そんな管理人の素朴な疑問、”奄美の三味線の弦は昔は何だったのか、そして、今の弦が黄色で化学繊維なのは何故か”と、以前から思っていたところに、Facebookで蚕の話題を見かけたところから始まったお話です。

そして、最終的に今の奄美では使われていない、絹の弦を手に入れることができました。
その音がこちらです。(プレイボタンは左端にある三角マークです)


そして、一般に使われている化学繊維の弦の音がこちらです。


どちらも同じ三味線、竹バチを使っています。

それほど徹底した調査ではなく、ネットでの検索、メイルでの問い合わせ、個人的な体験や蔵書からの調査結果です。まだまだ推測の域を出ず、勘違いの部分もあるかもしれません。
間違い等があればご指摘下さい。また、もし、他の情報をお持ちの方は是非お願いします。

奄美の三味線の特徴

シマ唄で使われる楽器である三味線は本体(竿と胴体)は沖縄の三味線と同じです。

奄美のシマ唄についてはセントラル楽器さんのサイトを、三味線および弦等の小物に関しても、セントラル楽器さんのサンシン小物のページを参考にしてください。

沖縄の三味線と大きく異なる点が、弦とバチです。

沖縄の弦よりも細く、女弦(めづる)という一番高い音の弦は単線、中弦(なーづる)と男弦(おづる)は撚り線です。色は黄色く、化学繊維で出来ています。

奄美のシマ唄の特徴として、キーが高く、男性も女性の声の高さで唄う点があり、三味線の音もそれに合わせて高いと言われています。

バチ

沖縄のバチは爪や水牛の角ですが、奄美のバチは竹を薄く削り皮の部分を残したもの、あるいは薄いプラスチック製です。

何故、奄美の弦は黄色なのか

奄美の三味線は沖縄と基本的に同じですが、先に書いたように弦とバチが違います。弦は細いだけでなく、色が違います。

沖縄の三味線の弦は白色ですが、奄美の弦は黄色です

沖縄の三味線についてはいくつか書籍があり、手元の書籍を調べたのですが弦に関する記述を見つけきれませんでした。ネットでの検索でも見つかりません。奄美の三味線に関しては書籍すら無く、弦に関しての情報は見つけられませんでした。

シマ唄が聴けるお店「かずみ」でお会いしたお客さんから興味深い話が聞けました。その方は中部地方で製糸業を営んでいる方で、奄美の三味線の弦の黄色を見て、”これは脂抜きをする前の絹糸の色”と言うのです。(実は記憶違いで脂ではなく、後で記述するようにタンパク質でした)

「かずみ」で他の三味線奏者の方からも、昔の弦は絹糸だったという話を聞いたことがあります。

しかし、かなり年配の方にもお聞きしましたが、今現在、絹糸製の弦というのは見たこともありませんし、実際に絹の弦を弾いた、音を聴いたという方もいらっしゃいません。

考えてみると、奄美の三味線の弦は地元の三味線屋さんなどで購入するのですが、駄菓子屋のビンのような容器に裸で入っていて、どこで作っているのか、作っている会社の名前などの表記もありません。

絹糸の弦を探して

結局、昔の奄美の三味線の弦は何だったのか、なぜ黄色なのかはわからないままでしたが、ひょんなことから絹糸の弦に繋がります。

テグス=天蚕糸

ある日、Facebookで蚕の絹糸腺の話題がありました。絹糸を吐き出す元、絹糸腺を蚕から取り出して糸にする。釣りの”テグス”はこれが語源で”天蚕糸”(テグス)。

紹介されている絹糸線の画像も黄色っぽい色をしています。そして釣り糸として使われる絹糸線(テグス)ならば三味線の弦にもできるぐらい強度がありそうです。

和楽器の弦=黄色

”三味線 弦”で検索をしていると、あるサイトが見つかりました。

琴糸・三味線糸・その他和楽器糸製造 – 滋賀県長浜市木之本町 丸三ハシモト株式会社

そのトップページにある弦の写真は奄美で販売されている形・色、そのものです。

商品情報ページを見ると、「大島糸」というのがあり、後で問い合わせてみると、やはりこれが奄美大島の三味線の弦、テトロンという化学繊維でできていて、沖縄と奄美の三味線用の弦としてテトロンを初めて使用したのが、この会社でした。

奄美の三味線の弦に関して教えてもらいました

よくあるご質問のページには黄色の理由もありますが、問い合わせてみたところ詳しく答えていただきました。(問い合わせ結果を編集しています。文責については本サイトの管理人にあります。記載内容について丸三ハシモトさんへのお問い合わせはご遠慮ください。)

  • 蚕や絹糸の研究所の方のお話で江戸時代より以前の日本の繭は黄色が多く、現在の白となったのは品種改良のため。また、和装(着物)などの絹糸は昔から一度「精錬」という作業により絹糸の外側のセリシンというタンパク質を取り除いて柔らかく、取り除かれた糸は白色になり色んな色に染色できる。検索してみると、野蚕のセリシンには黄色が強いものも多いようです。
  • 品種改良によって白くなった糸だが、伝統的に黄色い弦だったので、明治・大正はクチナシの実を使って黄色く染めた。現在はウコンで染色している。
  • 沖縄・奄美の弦は現在、テトロンという化学繊維で絹糸製は扱っていない。それは沖縄・奄美では演奏する場所を選ばないので、例えば浜辺などで絹糸は湿気の影響を受けやすく、耐久性の問題もあるので使いにくく、そのため化学繊維のみ。需要が無いというのもある。

商品を見ると薩摩琵琶の一部と沖縄三味線の弦が白いので、問い合わせてみると、琵琶の一部の弦が白いのは当時の家元によるもの、沖縄三味線の弦が白いのも近代になってからだと思われますが、不明だそうです。

沖縄の知人によると、沖縄では戦後の物資不足の時にパラシュートの糸を三味線の弦として使っていたという話を聞きました。これはあくまでも推測ですが、アメリカ領の間に、日本から和楽器の弦である黄色い弦が伝わることなかったのかもしれません。

一方、奄美では奄美大島の屋仁川という繁華街で明治から戦後まで、奄美の三味線ではなく、和三味線を使っていたそうです。ということは、(これまた推測ですが)和三味線の黄色い弦が主流だったでしょうから、それがそのまま奄美の三味線の弦として使われるようになったんじゃないでしょうか。

絹の奄美三味線の弦を探して

丸三ハシモトさんでは沖縄・奄美の三味線の弦として絹糸は無いということでしたが、もし和三味線の弦で奄美の三味線の弦として使えないか質問してみたところ、該当する製品を教えていただきました。

しかし、丸三ハシモトさんは個人向けの販売はしておらず、また、中弦と男弦に相当する製品は扱いが少ないので入手は困難だろうということでした。

入手先発見

どこか和三味線の弦を通販しているところが無いかと探していたところ、以下のサイトを見つけました。

鳥羽屋:琴糸・三味線糸・三線糸・雅楽絃など、和楽器(邦楽器)の弦(絃)を製造販売

取扱商品のご案内を見ると、絹糸の沖縄三味線の弦も販売しています。

それならばと、絹の奄美の三味線の弦もお願いできないかと問い合わせたところ、快く販売してもらえました。

後日確認しましたが、お問い合わせから注文を受け付けるそうです。なお、価格はお問い合わせ下さいとのことでした。

使用感

まだ届いてさほど使っていないのですが、とりあえずの使用感です。

  • テトロン製の糸と見た目はほとんど変わりません。言われてみると、すこし絹のほうがテカリが無い感じです。
  • 思った以上に強度はあります。弦を張る時に気持ちテトロンよりも軋むような感じがしますが、テトロンと同じ音の高さに張っても大丈夫です。(今回は男性で高い方の音、シマ唄では5、和楽器の調弦笛だと10、F#)
  • テトロン製でも撚り線は張ってすぐは安定しない(張っておくと撚りが締まって音が低くなる)のですが、絹のほうがより狂いやすい感じがします。湿度にもよるかと思いますが。
  • しばらく弾いてみてますが、私個人があまり荒バチではないというのもあり、弦が傷ついている、毛羽立っている様子はありません。
    しかし、荒バチ(荒いバチ使い、打ち付ける力が強い、早い調子の曲、六調等)では痛みは早そうです。

終わりに

手に入れた絹の弦は人工皮を張った三味線で使ってみましたが、それでもテトロン製の弦よりも柔らかい音のような気がします。本皮(本物のヘビの皮)を張った三味線はテトロン製の弦でも柔らかい音がしますが、これに絹糸を張るとどんな音になるのか聴いてみたいです。

まだ不明な点はたくさんあって、推測の域を出ていません。
情報をお待ちしてます。

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